教会のエントランスに足を踏み入れた瞬間、やさしい賛美歌が僕を包んだ。
ユカから突然のメッセージ。
台湾にいるはずの彼女から、日本の教会に誘われたことに、僕は少しだけ首をかしげていた。
「まさか、間違えたのかな?」なんて思いながら来てみると、そこにいたのは──ユカだった。
彼女はエントランスで、少し照れたように立っていた。白いブラウスに淡いスカート、その姿は、光に包まれているようだった。
「……なんで、ここに?」
僕がそう尋ねると、ユカは小さく笑って言った。
「Jに、どうしても伝えたいことがあって、一時帰国したんだ。内緒にしててごめんね」
僕の胸に、いきなり温かい何かが広がった。
彼女の真っ直ぐな目を見つめると、なにか大切なものに触れたような気がした。
教会の隅のベンチに並んで座ると、ユカは静かに語りはじめた。
「台湾で過ごしながら、教会生活を送る中で、Jと将来を歩みたいという思いが明確になったの。だから、どうしても直接伝えたくて」
そして、少しだけ目を伏せたあと、再び僕の目を見た。
「わたしね、信じてるの。Jの未来も、わたしたちの未来も、きっと優しくて明るいって」
僕は、その言葉を胸の中で何度も繰り返した。
彼女の想いが、静かに、でも確かに心に届いていた。
祈りの中で、彼女が決断したのだろう。
ユカにとってこの一時帰国は、ただの再会じゃない。相当な決心をもっていると分かった。
僕にとっての「決断の時」なのかもしれない。
※次回 第30話(最終話)「人生設計図」へ続く
(未来を選ぶその瞬間──Jが選んだ人生の設計とは?)