ユカの「台湾へ行く」という言葉が、僕の心にずっと響いていた。
あの日以来、頭の中では「どうするべきか」という問いがぐるぐると回り続けている。
彼女が夢に向かって一歩を踏み出そうとしていることは、素直に尊敬できる。
だけど、その夢が「一緒にいられない時間」を生み出すものだと思うと、素直には応援できなかった。
僕たちはまだ、付き合って日が浅い。
それでも、ここまで少しずつ心を通わせてきた時間は、僕にとってとても大切なものだった。
「距離ができたら、気持ちも離れてしまうんじゃないか」
そんな不安が、心の奥で渦を巻く。
そんなある日、研究室の指導教員との面談の後、何気ない雑談の中で先生がふとこんなことを口にした。
「研究者っていうのはね、自分のためだけに知識を深める人じゃない。未来の誰かのために、まだ見ぬ課題を解こうとする人のことなんだよ」
「成果が出るまでに何年もかかる。下手したら、自分が生きてるうちに意味が出てこないことだってある。それでも、それをやる。そういう覚悟を持てるかどうかなんだよ」
その言葉が胸に突き刺さった。
“自分のためだけじゃなく、誰かの未来のために選択する”ということ。
それはまるで、今の自分に対する問いかけのようだった。
ユカの未来を、自分の不安よりも大事にできるだろうか。
それが“支える”ということなんじゃないか。
帰り道、夕暮れの街を歩きながら、僕は携帯を取り出してユカにメッセージを打った。
「会って、ちゃんと話したい。今度の日曜、時間ある?」
※次回 第22話「手を取り合う約束」へ続く
(Jの決意と、ユカの返事。そしてふたりが選ぶ“これから”の形とは?)